最近よく耳にする「食育」。具体的にどのようなものかご存じでしょうか?
農林水産省では、食育とは「生きる上での基本であって、知育、徳育、体育の基礎となるもの」と定義されており、日本の食育はこの農林水産省が中心となって推進しています。
また、文部科学省でも「子どもたちが食に関する正しい知識と望ましい食習慣を身に付けること」と定義しています。
保護者の方の中には、大人になり我が子の食事内容や食卓の環境などに気を配るようになって、改めて「食」の大切さに気付いたという方も少なくないのではないでしょうか。
そこで今回は、食育とはどのようなものか、そして、紬木保育園では食育にどのように取り組み概念形成に繋げているかについてお話ししたいと思います。
食育とピクトグラム
食の大切さと聞くと、1日3回の食事の中でいかにバランス良く栄養を摂取するかに目が向きがちですが、大切なのはそれだけではありません。乳幼児期の子どもにとっての食事には、心を満たして人格の形成にも影響を与えるという重要な役割もあります。食育とは、人間を育てることと言っても過言ではありません。
そんな食育にはさまざまな取り組みがあり、それらを分かりやすくまとめたものが、農林水産省の「食育ピクトグラム」です。健全な食生活を送るため、紬木保育園でもこのピクトグラムを活用し、食育に取り組んでいます。
乳幼児期の食のポイント
下関市立大学学長である韓昌完(ハン・チャンワン)氏の著書「誰もが優秀児になれる!~CRAYONプロジェクトの実証~」には、乳幼児期の食のポイントが4つ書かれています。紬木保育園での取り組みとあわせてご紹介します。
①健康を意識する
初めての食材を口にすることが多い乳幼児期の子どもたち。時には初めての経験が嫌なものとなり食わず嫌いになってしまうこともあります。そうなると、子どもの栄養が心配になりますよね。けれど、そこは給食先生の腕の見せどころ!紬木保育園の調理室では、食べづらい葉物は柔らかく煮て小さく切る、マカロニは2倍の時間茹でる、口の中で食塊が作りやすいように調理するなどの工夫を凝らし、食べやすくして提供しています。
また、保育室での言葉かけも重要です。苦味や酸味のあるような食材を食べられた時にはしっかり褒める、食べられなくても苦味や酸味に気付くことができたことを褒める…といったように「良い経験」となるよう工夫しています。
また、朝食においては、欠食の予防や保護者の負担軽減のため、『朝食プロジェクト』を立ち上げました。栄養バランスも考慮した簡単朝ごはんの展示、レシピの公開、保護者からの質問を受け付ける目安箱の設置など、さまざまな活動を行いました。
\プロジェクト特設ページ/
②人との関わりを楽しむ
子どもの孤食(一人で食べること)は、栄養不足や心の成長にも影響があると問題視されています。紬木保育園では、クラスごとにみんなで食卓を囲んで共食することで、楽しい雰囲気で食事ができるようにしています。
③食文化を知る
食は、子ども達が国や地域の文化に触れ、文化理解のきっかけになることもあります。そのため、紬木保育園では日本古来の伝統行事やイベントの際に行事食を提供しています。行事食は、旬の食材を取り入れた季節の風物詩の一つであり、風土を活かしたものです。子ども達には、下関の味を知り、生まれ育つ土地の素晴らしさを学んでほしいと願います。食べる楽しみがよりいっそう感じられる彩り豊かな行事食は、子ども達にも大人気です。
また、紬木保育園は地産地消も目指しています。私たちの町・下関の食べ物を幼い頃から知ることで、昔ながらの食文化を守っていってくれることを期待します。
④自然の食材を意識する
調理される前の食材を知ることは、食や命についての関心を促し、自然の恵みに感謝することにつながります。紬木保育園で月に1、2回行っている体験型食育では、旬の食材(たけのこ、ブロッコリー、白菜など)に触れることで、五感を使った様々な体験ができ、食への関心を高め、「食べる力」=「生きる力」を養っています。
そして、園庭のプランターや近隣の畑で野菜を育てる農業体験も、子ども達にさまざまな学びをもたらしてくれます。作物を育てることで物事に見通しを持つことができるようになり、そこから推論する力を養うことにつながるほか、実った野菜の大きさや数に触れることで視覚や数の概念の形成を促します。実った大きな野菜を手に、子ども達も笑顔いっぱいです!
食育と概念形成
CRAYONプロジェクトに参加している紬木保育園では、子ども達の「概念形成」に力を入れています。
概念形成とは、「○○とはこういうもの(こと)である」と理解(学習)していくことで、すべての物事に対して当てはまります。あらゆることから学ぶことができ、食育の場も例外ではありません。
それでは、実際に保育の現場ではどのように概念形成を促しているのでしょうか。2022年度に実施した紬木保育園稲作プロジェクトを例に挙げてご紹介します。
稲作プロジェクトは、文字どおり稲を育てたプロジェクト。バケツに子ども達が苗を植えて稲を育て、秋に稲刈り・脱穀をした、年間通しての大きな食育活動でした。
【参照】
食育体験の間、保育者は子ども達にさまざまな声かけを行い、概念形成を促します。
例えば、脱穀やもみすりの際には…
●脱穀した後のもみを箱に入れたら、ザザザ~!瓶に入れたらパラパラ~!→聴覚概念
●藁を持ってみよう!前より軽くなったかな?もみを集めてぎゅーぎゅ!チクチクするね!藁はどんな匂い?畳の匂いに似ているね!→体感概念
●お月見の頃に稲刈りをしたね!お月見は誰としたかな?稲刈りはどんなことをした?→言語概念
●脱穀したもみの数を数えてみよう!すりこぎ棒であと何回ついてみようか?→数概念
このような声かけをして子ども達に気付きを与え、概念の形成につなげていきました。
脱穀やもみすりにはたくさんの工程があり、そのすべてが子ども達に学びをもたらしてくれました。
紬木保育園では、これからもさまざまな食育を通して子ども達の概念形成を促し、自己表現につなげていきたいと思っています。
参考文献・書籍紹介
誰もが優秀児になれる!
CRAYONプロジェクトの実証
紬木保育園の取り組みも掲載されています。
保護者の方、保育者の方、子どもに関わるすべての方に是非読んでいただきたい1冊です!